それは3年前、初めての海外旅行ひとり旅での出来事です。子育ても終わり、海外旅行に行きたいと思っていた私ですが日程が合う友人が見つからず勇気をだして一人でウィーンに行くことにしたのです。日本から予約していたオペラの観劇。わくわくする気持ちで出かけました。
開場時刻がきて、席につきましたがななめ前に座っている観客の行為が気になって少しイライラしていました。その観客はタブレット端末で舞台を撮影しているようでした。開演前は仕方がないと思っていましたが、オペラが始まって照明が落とされても大きめのタブレットを舞台に向けているので、私の前方が明るく光っている状態でした。
そのタブレットの明るさが気になってオペラに集中できない私のイライラはさらにつのり、日本を出て3日目、一人旅の緊張もあって疲れていたのか、冷や汗が出てきました。血の気がひいてくる感じもあり、いやな予感がしたのでホールに出ようと、隣の人に声をかけ遠慮がちに席を立ったところで気を失ってしまったようでした。
気がついた時には、会場内の通路に横になっており、私のストールをはずして頭を支えてくれている人、水の入ったコップを差し出してくれている人、足を少し高く上げてくれている人、パンフレットで風を送ってくれている人等々。ようやく立ち上がる事ができ、ホールに出ても歩くことができません。
係りの人が車いすを持って来てくださり私は医務室に運ばれました。残念ですがオペラ観劇をあきらめてタクシーでホテルに戻りたいことを伝えましたが、「一人できているのか?」との問いに「そうです」と答えると、「一人なのにこの状態では帰せないから、もうしばらくここで休んでいきなさい」と言われ、結局オペラが終わるまで遠くから小さく聞こえてくる歌声を聴きながら医務室で過ごすことになりました。
終演後、多くの人が会場からでてくる気配に、正気を取り戻し動けるようになった私がホテルに戻ろうと医務室の方にお礼を言うと、「ホテルに戻ったらコーヒーでも飲んでゆっくりしなさい」と優しい言葉をかけて頂き本当にありがたく思いました。
ひとり旅の緊張もあり、せっかく訪れたウィーンで多くの場所を訪れようと密なスケジュールをたてたこともいけなかったのかもしれません。その後、帰国までの3日間はのんびりしたスケジュールに変更し、観光した後も食事や休憩をはさむなどして余裕のもてる旅に変更しました。
この旅行を経験したあと、ひとり旅の楽しさを覚え、年に2回ほど欧州に旅をしています。
あの経験をしてからの私は、いろんな所を訪問したいとは思いますがあまり蜜なスケジュールをたてず、日程には余裕を持たせるようにしました。初めての時も旅行保険には加入していきましたが、もしもの時の事なんて考えませんでした。今では保険証券のコピーは観光中も持つようにして、何かあった際はどこに連絡すればよいのかしっかり確認して旅行に行くようになりました。
初めての海外、危険なめに合うこともなく、倒れた私を多くの方が介抱してくださり、しかもオペラを観劇したいであろうに私を介抱してくださり、そんな優しさに触れたこともあって私の初めての一人旅は本当に有意義なものとなりました。海外では本当に想定外のことが起こることがあります。用意周到にできることの準備はしていくことは当然ですが、何かあった際は海外であっても恐れることなく周りの人の親切を受けるのもありだと思いました。”